商業建築のデザインは・・・(感性美学という精神文化)
しかし、美しいと感じることは個人が感じるか感じないかの心情(心の中)の世界で、その発現を科学的に解明したり、数量化や計量化することは中々出来ない感覚的なことなのです。
私は日本人の心の中に秘められている美意識や価値観は非常に曖昧でそれが日本人の気質をよく現しているといつも感じています。欧米のように物事を白黒に単純に割り切ることが出来ず、その背景や人の思いを察しながら行動を起こす、そんな国民性が大好きです。・・・(しかし、欧米化が進む中で段々と失いつつありますが。)
この感性美学に値する言葉は英語にはありません。昔、外国で仕事をしていたとき、デザインの統一性やシンメトリーを崩す日本の美意識を説明することは困難でした。ましてや『侘びや寂』の感覚を外国の人に説得することは、通訳を入れても不可能でした。
日本特有の『感性美学』は、世界に稀な気候風土と豊かな自然環境から与えられました。その豊かな大自然から農作物の恵みを頂き、時には厳しい大自然から災害という戒めも受けながら自然と共に生きる先人の知恵や感受能力を身に付けてきたのです。それは日本人独特の心の遺伝子として継承してきたものです。
特に江戸時代は鎖国により、日本人独特の感性を庶民レベルの精神文化として花咲かせ熟成してきました。先人に感謝の気持で一杯です。しかし、明治維新から生活様式が洋風化され、日本人の心のあり方も著しく変化してきたことも確かです。特に第二次世界大戦の敗戦後からは、劣等感の中で追付け追越せと新たな豊かさを求め、アメリカナイズされた経済的価値を基準に利便性や合理性が優先され、消費することが最大の豊かさだと勘違いもしてきました。
有史以来、日本の文明は世界に稀に見る独自性の文化を育んできたのですが、戦後は西洋文明のさまざまな部分も取り入れ日常生活の中において、日本人独自の精神文化を育みながら心の中には単純に割り切ることの出来ない不思議な美意識や価値観を育て、素晴らしい精神文化として存在してきたのです。
この度の東日本大震災で日本人の秩序やモラル、共に助け合う精神力、自然に順応しながら自然と共に生きる遺伝子が現代においてもしっかり継続されていることが確認できて嬉しく思いました。そして、日本人らしい人を思いやる美学は私たちにとってあたりまえの行動ですが世界の人々にとっては驚きとして映っているようです。
現代において、私達は心に訴える感性デザインが生き物のように美しく、人々の本当の豊かさやこころよさを感じさせる不思議な感覚であることに気が付かされてきました。また個人の感性が美的センスとして商品選びや意志の決定に重要な役割を果たしていることも日常生活の中で無意識に体験もしてきています。
感性デザインが心の豊かさへの発想力として新たな価値や新たな商品開発の力になってきていることも確かです。今からの時代、世界は情報が著しく発達したグロバル社会、日本人の感性デザインが技術力やデザイン力となって先進諸国の中で注目されることは確かだと思います。しかし、感性は歴史が育んだ日本人独特の心情の世界、民族や宗教など歴史と文化の違いによる色々な問題も発生すると思います。感性デザインは心情の世界、その国の伝統や文化の理解をすることから始めなければならないようです。
商業建築のデザインを考える上で日本特有の感性はとっても大切なデザイン要素となっています。
日本人独特の美意識には形の無いものを如何に伝え、心で感じさせるか心情の世界であり、そのような素晴らしい感性文化が存在するのです。しかし、現代の日本人の心の中にも米国の合理性と機能性、経済的価値基準で心の心情を味わうことも少なくなってきているようです。現代を生きている私たちは競争的価値観を脳に刷り込まれてきたようです。しかし、新しい文明は古い文化の継承の上に成立っているのです。先人の人達から享受してきた日本人の感性や美学が生かされる日本的資本主義のあり方も模索する時期にきたようです。
梅雨が明けると懐石料理では季節と共に素材や器も夏らしく変わってきます。蓮の葉に盛られた冷麦、四季のうつろいをさりげなく感じさせてくれます。器一つも料理人のこだわりの美意識があります。蓮の器は料理場に近い蓮の池でないと調達はできません。きっとお客さんのために、時間を合わせて調達したに違いありません。
日本の懐石料理では季節感や自然の素材感などが見事に美意識として凝縮され、もてなしの心がさりげなく見事に伝えられています。
心よく感じる季節の空気感は感動となって日本の独特の感性文化を育んできたのです。感性は自然豊かな四季を享受し、自然を生かし、共に育んできた日本独特の精神文化なのです。
商業建築では、モノを選択するのはお客さんが心で感じた『感性価値』が最も影響され必要とされるのです。
選ばれるに値するためには空間デザインだけではなく、形の無い空気感やもてなしの心を伝える気遣いも大切な要素となります。
それには店主のしっかりとした商いの理念と美しく生きる為の美学が必要となります。
しかし、・・・商業建築では商いの場=利益追求=人集めと高収益=欲の塊・・そのような図式があります。
商業建築のデザインは、単に利益追求のためだけのデザインでは成立ちません。商いとは=顧客に喜びや感動を与え、店主の哲学や理念、それを表現する美意識が必要となります。
商いの場である商業建築デザインは、店主の思いや理念を生かしながら美しいカタチを具体的に表現すること、それは『店主の生き方からのデザイニング』が最も必要とされることでもあります。
私達は近代以降、西欧文化に熱心になり過ぎて、日本の素晴らしい精神文化遺産を忘れてきたように思います。
日本の美意識は心で感じることが最も大切なテーマとして育まれた『感性美学という精神文化』であると思います。
そのためには商業建築のデザインも単なるマーケットや利益追求の発想ではなく、、『人の心』について深い洞察を行う精神美学が必要となります。そして社会環境、街、政治、経済、産業など、全てを含むデザイニングという大きなスケールで捉えなければいけなくなりました。
私達デザイナーは、モノを単にカタチにし、話題性で人を集め、斬新さと華やかさ、売上のための手段となる施設や空間を造れば良かった時代は去ったのです。
社会環境をも含め、企業や店主の理念や美意識を生かし、生活者が豊かに暮らせる美は如何にあるべきか。
時代の先見性と新しい文化の創造者としての役割が常に求められているのです。
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